PROJECT STORY
プロジェクトストーリー
順天堂大学病院
営業、設計、工事。
スペシャリストたちがひとつとなり、
巨大プロジェクトを成功へと導く。
土木、建築、設備、内装。一つの建築物が竣工するまでには数多くの企業と人が携わる。その中でも特に「建物に命を吹き込む」と言われているのが、空調や衛生、電気などの建築設備だ。例えば、どんなにデザイン性が優れていようとも、「水が出ない」「トイレが流れない」「空調が効かない」では、その建物に価値はない。朝日工業社は建物に快適な環境という価値を創造する空調・衛生設備のスペ シャリストとして、設計から施工までを一貫して行い、これまで数多くの実績を残してきた。
MEMBER
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S.M
営業部
2013年度入社 法学部卒
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K.O
設計部
1994年度入社 電子機械工学科
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S.I
工事部
2007年度入社 工学部卒
プロジェクト開始
すべては受注のために。
営業部と設計部の挑戦が始まった。
「順天堂大学病院に新棟建設の計画がある。ついては、衛生設備の概算見積りをお願いしたい」。朝日工業社の営業部にそんな話が舞い込んだのは2011年のことだった。電話の相手は日本有数のスーパーゼネコン。担当営業が具体的に情報収集すると、プロジェクトは竣工までに3年以上かかる長期的なものだという。これまで数々の病院建設に携わってきた朝日工業社にとって、この案件は得意分野。是が非でも受注したかったが、そのためにはまず「価格競争」に勝ち抜かなければならなかった。当プロジェクトを担当することになった営業部の松山は言う。
「通常、巨大プロジェクトの見積りは複数社に依頼され、その中からもっともリーズナブルな価格を提示した会社が受注することになります。もちろん安ければ安いほど受注しやすいですが、利益とのバランスも重要です。利益を確保しつつ、受注につながる金額を割り出すためには、過不足のない見積りを作成することが重要なのです」。
概算見積りは、基本計画書をもとに作られるため、設計部の力が欠かせない。そこで松山は、設計部の奥田に相談を持ちかけた。奥田は、朝日工業社で20年以上も設計を手掛ける大ベテランだ。経験がモノをいう巨大案件には、まさにうってつけの人材だった。
「病院というのは通常の商業ビルやオフィスビルと違い、感染を防ぐための特殊な換気方法や、感染系排水の処理などの特殊な設備が求められる施設です。それだけに図面も見積りも作成が難しい。特に今回は規模も大きいため、何度も営業部や購買部と意見を交わし、少しずつ全体像を把握していきました」。
求められるもの
本契約に求められるのは、
さらに高い見積りの精度。
ゼネコンから選考結果が知らされたのは、概算見積りの提出から約3ヵ月経った頃だった。電話の内容は、朝日工業社と仮契約を結ぶというもの。ゼネコンからの知らせを聞いて、松山はホッと胸をなでおろした。社内にも一瞬安堵の空気が流れたが、本当に大変なのはここからだった。まずは正式な見積りの作成だ。概算見積りはあくまでも概算。本契約を結ぶまでに、より精度を高めた見積りが必要になるのだ。
「施工が始まるまでの段階でもっとも大変なのが、コストの調整です。ゼネコンからの要望を限られたコストの中でどう実現していくのか。VE(Value Engineering)の手法を使い、コスト低減と価値の最大化を目指して、部材の選定、施エ方法、施工体制などを何度も検討しました」と松山。時には設計部である奥田も、松山と一緒にゼネコンまで足を運び、先方からのヒアリングを行った。
「この段階で重要なのは、お施主様である病院側のニーズを施工業者全員が的確に把握することです。作業のプライオリティをゼネコン側の設計者と私たちで共有しておかなければ、施工段階に入ってからトラブルになる可能性がある。そうなればエ期が延びてコストも増えてしまいます。設計のプ口同士、率直に意見をぶつけあいながら最善の方法を模索していきました」(奥田)
何度も、何度も図面を書き直したという奥田。その甲斐もあり、日を追うごとに設計図は完成へと近づいていった。無事に設計図が完成したのは、それから数ヵ月後のこと。本契約が結ばれる頃には、月日は最初の連絡からすでに1年以上も経過していた。
急がず、早く
目に見えないものを形にせよ。
工事部に与えられた使命とは。
見積りや図面作成の難しさが、実体の無いものを紙に落とし込んでいくことだとしたら、施工の難しさはその紙の上の情報を形にしていくことにある。実際に施工を担当するのは、エ事部のメンバーたち。工事部の仕事はまず、設計部が作成した設計図をもとに「施工図」を書くことから始まる。施工図とは、実際の工事を行う際に、「配管を壁から何センチ離せばいいか」「天井から何センチのところに機械を設置すればいいか」といった細かな寸法が入った図面のこと。 一見、完璧な設計図があれば、施工図も簡単に作成できそうだが必ずしもそうではないという。今回、朝日工業社の現場代理人※ を務めた伊集はこう振り返る。
「設計図はあくまでも平面的に描かれたものですから、実際にやってみると実現が困難なこともあります。さらに電気設備や消火設備の施工業者もそれぞれ設計図を作成しているため、いざ現場ですり合わせてみると、配管の位置などがバッティングしていることも日常茶飯事。解消するためには各社間での調整が欠かせません。時にはそれぞれ設計図を持ち寄り、譲るべきところは譲り、主張すべきところは主張しながら施工図を書き上げます」。
しかし、どれだけ綿密な施工図を用意したとしても、実際に作業が始まると仕様変更は発生してしまう。特に大型案件になればなるほど、エ期も長く、関わる人も多いためその傾向は強まるという。
「お施主様にもゼネコンにもさまざまな事情がありますから、仕様の変更がある程度発生するのは仕方のないことです。大切なのはその変更によって生じた問題を、どのように解決していくかということ。現場代理人には、安全管理、品質管理、工程管理、原価管理を行う義務があります。品質とコストをバランス良く保つためには、VE策を積極的に提案することも、私たち工事部の大事な仕事なのです」(伊集)
「急がず、早く」を実現するために工事部のメンバーは、計画と段取りを重視する。「計画」とは、数ヵ月後や数年後を見据えた長期的な道筋。「段取り」とは、計画を円滑に実行するための下準備のことを指す。
「時には設計部にも現場に足を運んでもらい、何かあればその都度、施工図や施工体制を変更します。そのためには自社の作業内容はもちろん、他社の作業やスケジュールも把握していなければなりません。また、実際に現場で作業する職人さんたちとのコミュニケーションも大事な仕事。関わる範囲が広いため、現場代理人には覚えることが山のようにありますよ」と伊集。
一つ一つの作業を丁寧に積み重ねることでしかゴールにはたどり着けない。プロジェクトに関わるメンバーは全員がそのことを知っていた。 一つ一つ、急がず、早く。全員が自身の仕事を丁寧にこなしていくうちに、まっさらだった空間にまた新たな仕事が立ち上がっていく。ゴールはもう目の前だった。
※現場代理人…工事契約上の請負人(社長など)の代理として現場に常駐し、品質や工程、安全など工事の施工に関するすべてをマネジメントする現場責任者。
完成、そして次へ
大変なことが多いからこそ、
この仕事は人一倍感動できる。
2014年3月。竣工したばかりの順天堂大学病院B棟には、数多くの人が集まっていた。施主である病院関係者、ゼネコン、朝日工業社をはじめとした多くの設備会社、職人方、そしてその家族たち。追い込み時には現場に泊まり込み、家を留守にすることもあったプロジェクトメンバーたちの家族に、手掛けたものを見てもらおうとゼネコンが主催した完成披露会だった。そこには伊集はもちろん、奥田や松山の姿もあった。たった1本の電話から始まったプロジェクトは、約3年の時を経てようやく一つのゴールを迎えることになる。「蛇口をひねるとお湯が出る。 一見、当たり前のように思えますが、それを実現するためには実は多くのハードルがあります。それだけに竣工した時の感動は言葉にできないものがあるんです」と口をそろえる3人。その表情には、本気で仕事に取り組み、悩み、そして満足している心の内が表れているようだった。
実はこのプロジェクトストーリーには続きがあった。B棟の施工が高く評価された朝日工業社は、続く新棟の施工も新たに受注。さらにその次に建設される棟の受注も決定したという。10年近くも続くことになる巨大プロジェクトは、今もなお進み続けている。
※部署、役職、インタビュー内容などは取材当時のものです。