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可視化技術
見える化技術の必要性
風の流れや空気中の微粒子の動きは、通常肉眼で見ることが出来ないため、当社の事業領域である空調設備やクリーンルームの調整には経験と勘が必要になります。「みえるかラボ」の微粒子・気流可視化計測技術は、肉眼では観察できない風の流れや微粒子の動きを高感度・高速度カメラを用いて「見える化」し、現象に対する理解を深めることを可能にします。
2019年終わりごろに初めて確認されて、世界中へ感染が拡大した新型コロナウイルス感染症(国際正式名称:COVID-19)への、防護・予防方法が注目されています。COVID-19の感染経路は、飛沫感染、接触感染および空気感染が報告されていますが、感染経路における感染源の多くは、感染者から生じる飛沫によるものです。飛沫は、呼吸や咳などの生理的な動作および会話のような日常的な動作により発生します。飛沫の拡散様態は、動作により異なるため、防護・予防方法の検討・周知を行うにあたり、この拡散様態を見える化し、理解することは極めて重要となります。さらに、空気感染防止に重要な換気状況を視覚的にとらえることができれば、換気の重要性の理解に繋がります。
見える化技術の利用イメージ
~分注器周辺での異物混入改善~
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分注器からの充填時の勢いで容器から巻き上がり吹き出た中身(エアロゾル)が異物のもとになります。
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エアロゾルは、気流にのって空気中のほこりや菌を巻き込みながら移動します。ふたがされるまでに容器の中へこのほこりを巻き込んだエアロゾルが落下すると異物混入となります。
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吸引ダクトを設置することで分注器以外のところにエアロゾルが広がらないようにすることで異物混入を防ぎます。
見える化技術の利用イメージ
~感染症対策技術の評価~
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見える化技術の原理
気流・微粒子の可視化では、光の散乱と呼ばれる現象を利用して可視化を行います。この現象は、カーテンの隙間から差し込む太陽光によって、日ごろ肉眼では見えない空気中の微小なほこりがキラキラと見えるようになる現象と同様です。実際の測定では、カーテンの隙間から差し込む太陽光を「レーザライトシート」に置き換え、肉眼を「高感度カメラ」または「高速度カメラ」に置き換えて測定を行います。
微粒子の可視化計測では、微粒子発生源周辺の測定したい領域に向けてライトシートを射出し、そのライトシート中に存在する微粒子を高感度カメラで撮影、パソコン上で撮影範囲の微粒子を検出します。
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気流の可視化計測では、Particle Imaging Velocimetry (PIV)という手法を用います。PIVとは、2枚の連続した粒子画像から、粒子の移動距離と方向を計測し、この移動距離を2枚の画像の取得間隔(時間)で割ることで、粒子の移動速度・方向を求める手法です。ここで、粒子の移動速度が、空気の移動速度に追従できれば、「粒子の移動速度 ≒ 風速」として計測が可能になります。したがって、画像内に粒子が満たされていれば風速分布を可視化することが可能になります。PIVでは、計測範囲を粒子で満たす必要があるため、トレーサと呼ばれる粒子を散布して計測を行います。トレーサは、水蒸気、スモークマシンのスモーク(グリコール類の蒸気)、微小粉末などで、計測対象の流速や周辺環境条件(例えば、クリーンルームは水蒸気、一般環境はスモーク等)によって適宜選択します。
みえるかラボ
「みえるかラボ」は、高強度レーザライトシートおよび可視化専用カメラを備えた実験室です。実験室は、様々な気流パターン、温湿度および清浄度の制御が可能であり、再現したい環境条件に応じて切り替えて利用します。
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解析例
1.微粒子の可視化
人の咳によって飛沫が生じる瞬間を可視化しました。黄色く囲ってある部分に移っているのが、咳をした際に生じた飛沫です。咳発生から0.5秒の点では、飛沫が口から勢いよく吹出している様子がよくわかります。高感度カメラを利用することで、肉眼では観察しにくい、飛沫発生の様子がはっきりと観察できます。
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咳飛沫の可視化
2.気流の可視化およびPIV解析
気流の可視化では、咳をした時に生じる空気塊の移動を可視化し、PIV解析を行うことで空気塊の移動速度を計測しています。写真中の矢印の向き、大きさ、色は、風の移動方向と速度を表しています。この例では、咳をした時にできた空気塊の部分にオレンジや緑の矢印が見えています。これは、空気塊が1.5~2.0 m/秒程度の速度で移動していることを表しています。一方で、ほぼ無風の部屋にて実験をおこなったため、空気塊周辺以外はほとんど矢印が見えません。
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咳によって生じる空気塊の移動速度の可視化
解析例の画像のもとになった動画が動画集にありますので、そちらも御覧ください。
今後
可視化技術と人工知能を組み合わせることで、より高性能な可視化計測手法の開発に取り組んで参ります。
動画集
咳をした時の飛沫の飛行経路を可視化しています。口から吹出した飛沫は、2 m以上飛散していきます。
不織布マスクを着用した場合と着用していない場合での、飛沫の発生状況を比較しています。右が不織布マスクを着用した場合、左が着用しない場合です。不織布マスクをした場合、ほとんど飛沫が発生していません。
咳をした時に生じる空気塊の移動速度をPIVにて可視化しています。空気塊は、口から出てすぐは2 m/s程度の速度を保っていますが、その後大きく減速しています。速度は落ちるものの、空気塊自体は1.5 m移動しており、2m近く飛散した飛沫と同じ経路を辿っていると思われます。
密閉した部屋の窓を開けることによる換気の効果を検証しています。窓を開けた瞬間、勢いよく煙が窓から外へ流出する様子がわかります 。
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